怪談社は、糸柳寿昭と上間月貴の両名を中心に怪談実話を蒐集し、トークイベントや書籍の刊行を行う団体だ。その二人が全国各地の忌み地、いわくつき物件を中心に取材。その情報を作家・福澤徹三が書き起こしたのが、怪談実話集『忌み地』『忌み地 弐』(講談社文庫)である。同書から選りすぐりの怪談実話をお届けする。
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「あいつを呪いたいんです」
その夜、糸柳は取材の帰りに赤坂で「怪談のシーハナ聞かせてよ。」のディレクター、K丸さんと番組の打ちあわせをした。
次のゲストについて話していたとき、K丸さんがふと思いついたように、
「そういえば、いままで訊いたことなかったけど、糸柳さんっていままで怖い体験はないんですよね」
「ないね」
「ですよね。どちらかっていうと否定派だし」
「まあね。けど、ようわからんことは、いくつかあったよ」
十五年ほど前、糸柳は大阪で絵画関係の仕事をしていた。
その夜、仕事を終えた頃、自宅を兼ねた事務所に知人のWくんが訪ねてきた。
Wくんは当時二十代なかばの男性で、彼の勤務先には顔見知りが何人かいる。
「悔しい。マジ悔しいっす」
Wくんは事務所に入ってくるなり顔をしかめて、そう繰りかえした。
なにがあったのか訊くと、会社の同僚に裏切られたという。
「営業の手柄をとられたうえに、ミスを押しつけられたんです。そのときは、おれがまぬけやったと我慢してたんですけど──」
その同僚がきょう昇進したので、頭に血がのぼったらしい。
糸柳はWくんの上司のDさんを知っているから、
「Dさんには相談した?」
「ええ。でも、だめでした。あいつの昇進は人事の判断なんで──」
Wくんは愚痴をこぼし続けていたが、不意に糸柳に眼を据えて、
「あいつを呪いたいんです。手伝ってもらえませんか」
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糸柳は馬鹿げた依頼にあきれつつ、
「呪うって、どうやって?」
「おれ流の方法を考えてきました」
Wくんは奇妙な御札と同僚の髪の毛をバッグからとりだした。
御札は自分で作ったもので、髪の毛は同僚のデスクから拾ってきたという。糸柳はますますあきれたが、Wくんは真剣な表情で、
「怖い絵を描いた紙にこれをくるんで、あいつの住んでるマンションのそばに埋めるんです」
「効果はないと思うけど、それで気がすむなら、やればええやん」
「ええ。でも怖い絵がないんです。だから描いてもらおうと思って──」
Wくんはそれを頼みに事務所にきたらしい。糸柳は気乗りしなかったが、Wくんの熱意に負けて、しぶしぶボールペンを手にした。
「どんな絵がええねん」
「怖ければなんでもいいけど、できたら残酷なのがいいっすね」
糸柳はA4のコピー用紙に、両手足がちぎれた女の絵を描いた。
まったくやる気がないだけに、さして怖い絵ではなかったが、Wくんは狂喜して、いまから呪いをかけにいくという。
「その同僚って、どこに住んでんねん」
「それが、ここからすぐなんです」
近所で妙な行動をされるのは不快だった。が、ほんとうに実行するのか興味があったので、Wくんのあとをついていくことにした。
鳴り響いたパトカーのサイレン
Wくんを裏切った同僚が住んでいるマンションは、驚くほど近くにあった。
彼はオリジナルの呪物を大事そうに抱えて建物の周囲をまわったが、どこもかしこもコンクリートやタイルで覆われ、埋められる場所がない。
「どないすんねん。埋めるとこないやん」
「大丈夫っす。ここに埋めます」
Wくんはマンションの入口にあった花壇を手で掘って、オリジナル呪物を埋めた。Wくんはすっかり上機嫌になって、いまから吞みにいきましょうと誘ってきた。けれども常軌を逸した行動を見ただけに、つきあう気になれない。
糸柳はその場で彼と別れて自宅に帰った。
翌朝、近所でパトカーのサイレンが鳴り響いていた。
気になって外にでてみたら、Wくんの同僚が住んでいるマンションにひとだかりができている。野次馬になにがあったのか訊くと、けさマンションの花壇の前に盗難車が捨てられていて、車内に男のバラバラ屍体があったという。
屍体はむろんWくんの同僚ではなかったが、偶然というにはできすぎている。
「呪いの効果、ぜんぜんちゃうやん──」
糸柳は驚愕しつつ、ひとりごちた。
事件のことをWくんに伝えようと思って電話したが、つながらない。何日か経っても連絡がとれないので、彼の上司に電話すると無断欠勤しているという。
「いつから休んでるんか訊いたら、呪いをかけにいった次の日からやった」
さらにWくんを裏切った同僚も、その日から無断欠勤していた。ふたりはそれっきり行方不明で、いまだに消息はわからない。
バラバラ屍体が発見された事件は、屋外だったせいか「大島てる」には記載されていない。被害者や犯人が誰なのかも不明だが、事件があったのは事実だ。
ちなみに「大島てる」で検索すると、このマンション付近では他殺や自殺など六件の変死が起きている。
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November 06, 2020 at 04:00AM
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