スウェーデン語で「ちょうどいい」を意味する「LAGOM(ラーゴム)」という言葉。現代社会のさまざまな問題における最善の落とし所、すなわち“みんなのラーゴム”を探るならば……? スウェーデン在住歴20年以上のコラムニスト、ブロムベリひろみさんが、現地のリアルなリポートを交えてお届け。
「4週間の長きにわたり、会社がほとんど休業状態で大丈夫なのだろうか?」
スウェーデンで働き始めた最初の年、同僚が続々と夏休みの予定を入れていく中、私はとても心配していた。働いていたのはIT系スタートアップで、日本企業とも取引していたからだ。しかしその心配は見事に杞憂に終わる。
スウェーデンでは夏季休暇も年間プロジェクト計画の中にしっかり組み込まれていて、夏がくれば計画通りにしっかり休むだけ。各担当者のスケジュールは他の仕事で埋まっていることもあれば、休暇で埋まっていることもある。休みの予定は他の仕事の予定と同様、いや、きっとそれ以上に優先されるべき最重要事項だった。その年の夏、みんなが長期間休んでもプロジェクト進行上特に大きな問題は起きなかったという経験は、私の休暇観を大きく変えた。休暇は各自のスケジュールに予め組み込んでおけばよい、ただそれだけのことだった。
休んでいたらお給料が増える? 有給休暇手当制度
スウェーデンでフルタイムで働く人は、国の規定により年間25日(5週間)の有給休暇が保証されている。この法律は早くも1938年に導入され、当時は年間10日すなわち2週間の有給休暇だったが、1978年には今の最低保証有給休暇日数の25日になる。
実際何日間の有給休暇を貰えるかは、国の規定の他に、労働組合連合と雇用主連合の労働協約や、各企業と社員の間で交わされる雇用契約の内容で違ってくるが、フルタイムで働いている人は必ず25日の有休がある。そして25日分の有休は5週間の休暇に相当するが、スウェーデンで働く私たちにはそのうちの20日、すなわち4週間分を6月、7月、8月の3カ月の間で連続して取得する権利がある。
私は去年3週間の夏休みを申請したところ「なぜ4週間続けてとらないんだ」と上司に問いただされたので、今年はスウェーデンで働き始めてから初めて、連続4週間の休暇を取得中だ。どうやらこの国では、4週間くらい続けてとらないとリフレッシュできないとみんなが本気で考えているようだ。
スウェーデンの夏休みで驚くのは、その期間の長さだけではない。もっと驚いたのは、休んでいたらお給料が増えていたことだ。これは有休を取ると手当がつく有給休暇手当という制度によるもので、
もらえる手当の額は、会社が団体労働協約を交わしているかどうかによって異なるが、労働協約がある場合は、有休一日につき月給の0.08%が有休手当としてつく。
例えば月給が3万5000クローナ(約48万円)の場合は、有休一日あたり280クローナ(約3800円)もらえる。この支給額は有休をとった翌月の給与に加算されていて、25日の有休を全部使った場合、1年間で7000クローナ(約9万6000円)の手当がつく。こんな素晴らしい仕組み、いったい誰が雇用主や国と掛け合って勝ち取ってくれたのか知らないけれど、休暇をとっているだけで給与が増えていくのだから休まない手はない。
これといってなにもしない、夏休み
そんな長くてお得な夏休みに、スウェーデン人たちはいったいなにをしているのかというと、一番羨ましがられるのは「これといってなにもしない、素朴な、サマーハウスでの生活」だ。
別荘という言葉がまったく似つかわしくない、簡素なサマーハウスを海岸や湖畔に持つ人は案外多く、夏はみんなそちらに居を移し、食べて、寝て、泳いで、ベリーを摘んで、本を読む。温暖化とはいってもスウェーデンの典型的な夏の日の気温は暑くても25度ほどで、海や湖の水はまたそれよりぐっと冷たいが、それでも強い日差しの長い夏の一日、子どもたちは日焼けした肌で唇が紫色になるまで水遊びを楽しむ。
スウェーデンの夏はみんなが心待ちにする1年で一番いい季節であるし、最近はコロナや地球温暖化による影響もあり、国内で夏を過ごす人も多いが、ここ数年特に人気なのは、南西ヨーロッパへの電車の旅だ。一時は格安飛行機に押され、南への夜行列車がなくなっていた時期もあったが、エコな電車の旅が再注目され、電車を使った旅のガイドブックも続々刊行されている。同じく電車を使う旅では、北部山岳地帯(フェーレン)へのトレッキングやキャンプの旅の人気も再燃している。
社会サービスが手薄になるのは 「お互い様」
長い夏休みの話を日本の方にすると「夏の間、社会的機能はどうなっているのですか?」と聞かれることもあるのだが、私はよく「夏の間は病気にならないよう、細心の注意を払う必要があるのです」と冗談めかしてお答えする。みんなが夏休みを取るということは、エッセンシャルワーカーの人たちもシフト体制をとるものの、やはり人手は手薄になるし、手術などの予定も医師や看護師の夏休みを考慮して組まれることになる。それでも、それを大きな問題だと考えるスウェーデン人に今まで会ったことがないのは、みんなこれは「お互い様」だと理解しているからだろう。
自分は長い休みを取りたいが、その間も病院や各種サービスはちゃんといつも通り機能しておいてほしいというのは少し考えればずいぶん自分勝手な考え方で、そのことをスウェーデン人はよく理解しているのか、こと有給休暇法に限って言えば、誰かが改善を求めたり異議を申し立てたりしていると聞いたことはない。
スウェーデン人は、休暇の予定を話している時と、休暇中、そして休暇の間にあったことを話している時が一番幸せそうだ。
私が初めてスウェーデンを訪れたのは、7月末から8月頭にかけてのとても天気のよかったストックホルムで、そのあまりの美しさと快適さに「天国があるとすればこんな感じなのだろうか?」と思ったものだが、そんな美しい夏は、また、儚く短いという定めでもある。
7月が夏休みのピークのスウェーデンでは、8月に入るとあちこちでザリガニを食べるパーティが開かれ、月半ばには学校も始まる。しかしそれまでは、アストリッド・リンドグレーンも書いたように、大人も子どもも「遊んで、遊んで、遊びました」を一日でも長く続けるのである。
ブロムベリひろみ(HIROMI BLOMBERG)
ブロガー、コラムニスト。日本での広告代理店、エンタメ企業での勤務を経て、2000年よりスウェーデン在住。現在は会社員として働く傍ら、スウェーデンの今を伝えるニュースウォッチ・ブログ「swelog(スウェログ)」を日々更新中。神戸大学卒の関西人。>>ニュースレターはこちら
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