2018年から2年連続で、浸水被害を受けた佐賀県の農業だが、唐津市のあるトマト農家が独自の水害対策を行い、注目を集めている。水害を“防ぐ”のではなく“共存する”という、発想の転換から生まれた「浮かせる水害対策」とは。
就農したばかりなのに…浸水で作物が被害 廃業の危機に
唐津市にある石志(いしし)地区では、大雨の時、隣を流れる徳須恵川(とくすえがわ)にうまく水がはけられず、内水氾濫が相次いでいる。そんな中、この地域で“ある水害対策”に取り組む農家が存在する。
この記事の画像(14枚)フルーツトマトを栽培している吉田章記さん(44)。就農してわずか2年、2018年から2年連続で、浸水被害を受けた。
トマト農家・吉田章記さん:
川の方から徐々に水が溜まっていって、田んぼの区画が全くわからないくらい、一面湖みたいな状態で水が来て、ハウスも浸水していく。(膝あたりの高さを指しながら)このぐらいの水位で浸かる
約2,000平方メートルのハウスは15cmほど浸水。根腐れなどで枯れてしまい、6割以上の苗を廃棄したという。
トマト農家・吉田章記さん:
10年に1度の大雨の時に当たったんだと思って次の年を迎えたが、次の年も被災した時には、さすがにどうしようと。企業体力もないうちに水害・水害・水害なので、辞めないといけないのかなと
そこで吉田さんは、被害を食い止めようと独自の対策を行っている。
独自の対策…きっかけは聖書?「半分投げやりな会話」から得た発想
トマト農家・吉田章記さん:
この栽培方法、ほぼ全ての材料が発泡スチロールでできている。“簡単に浮く”ようなシステムになっている
全国的にも珍しい“浮かせる”水害対策。吉田さんに「持ち上げてみてください、すごく軽いので」と促され、取材班も試してみると…本当に軽く、簡単に持ち上がった。
トマト農家・吉田章記さん:
1kg無いくらいの重さになっているので、すごく簡単に持ち上げることができます
この対策の大きな特徴は、栽培用の土台にあった。吉田さんは土台に発泡スチロールを活用し、土をヤシ殻に変えることで軽量化を実現。15cm以上浸水すると、柱の一部が簡単に取れて土台が浮く仕組みになっている。
また、上からつるされた紐で苗を固定しているため、水が引いたあと、浮いた土台は元の位置からずれることなく着地するという。
浮かせる発想のヒントになったのはなんと、聖書だ。
トマト農家・吉田章記さん:
「水害だったら“ノアの箱舟”やん、浮かせるしかないっちゃない?」という、半分投げやりな会話の中できっかけが。「あっ、浮かせよう、本当に浮かせてみよう」と思ったのが発想のきっかけ
水害を防ぐのではなく“水害と共存する”という発想の転換から生まれた栽培方法。
子ども用プールで半年間、試行錯誤しながら、吉田さんは2020年、約300万円かけて“浮かせる”栽培の装置を完成させた。
今度は倍以上の水が…発泡スチロールが起こした“奇跡”
完成から1年がたった、2021年8月14日。県内に大雨特別警報が発表され、ハウスにもこれまでの倍以上、約30cmの高さまで水が流れこんだ。
想定を超える水位で、吉田さんが恐る恐るハウスを見に行くと…
トマト農家・吉田章記さん:
正直、この水位だったら「浮いてくれなかったらアウト」と思っていた。見た瞬間、トマト自体普通の状態だったので、本当にうれしかった
なんと、独自の“浮かせる”対策が成功!苗は全く浸かっていなかった。約5cm浮いたことがわかったという。
トマト農家・吉田章記さん:
蛇行して倒れたりしないかとかいろいろ心配していたが、(水が引いて、ハウスに)戻ってきた時はこの状態で、まっすぐ下りていた。今年は栽培を続けることができた
この栽培方法が評価され、現在、スマート農業を推進する兵庫県の企業とともに、モンスーンなどで大雨の被害を受けるインドでも実現を目指そうと、実証実験が始まっている。
トマト農家・吉田章記さん:
何もしていない時だと「来ないでくれ」、「降らないでくれ」と思うことしかできなかったが、対策を打つことで「これをこうしておけばこの辺くらいまでは耐えられる」とか、ある程度自分の力でも抗うことができる。気を引き締めながら“大雨と共存する”、この変化に対応できるような栽培を続けていきたい
(サガテレビ)
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