日興アセットマネジメント(AM)が8月31日、新たな投資信託のシリーズを投入した。名称は「トレイサーズ」。ファンドマネージャーが銘柄を選定して投資する、いわゆるアクティブファンドに対して、あらかじめ定めたルールに沿って売買を行う「ルールベースファンド」だ。
ネット証券や銀行のネットチャネル専用の商品とし、紙の資料などを廃すことでコストも抑えた。昨今、ブームとなっているのはインデックス投信だが、そこにひと味加えることで、差別化していく考えだ。
「アクティブの反対は何か? インデックスとは限らない。反対はパッシブだ」と商品開発部長の有賀潤一郎氏は話す。パッシブ投資とは、投資において人の判断を入れず、事前に決めたルールに沿って投資するものを指す。インデックスファンドもパッシブ投資の1つだし、より複雑なルールに沿って投資するものもある。
「非アクティブ型の選択肢と可能性は、もっと広くて柔軟だ。ルールベースを積極的に加えることで、もっと魅力的になれるはず」(有賀氏)
米国株+金へ投資する新ファンド
そうしたコンセプトに基づき、トレイサーズシリーズの第1弾として、米国株式と金投資を組み合わせた「Tracers S&P500ゴールドプラス」を投入する。これは代表的な米国株式指数であるS&P500と、昨今のインフレで注目される金に、同額を投資するファンドだ。
「金が長期的なインフレに伴って上昇が期待できることに加え、人気のS&P500に金を加えることで、逆相関によるリスク分散効果もある」と有賀氏。投資においては、それぞれが異なる値動きの商品を組み込むことで、期待リターンをそのままにリスクだけを減らすことができる。
有賀氏は2019年に話題となった「3倍3分法ファンド」の生みの親でもある。こうした投信の運用で培ったノウハウを、新シリーズにも生かした。S&P500ゴールドプラスは資金の2倍を運用するいわゆるレバレッジファンドで、金はすべて先物を使って運用する。資金の85%はS&P500の現物を購入し、残り15%を証拠金としてS&P500の先物15%分と、資金100%分の金を運用する形だ。
実運用額は資金の2倍だが、先物を使うため、金に関しては為替の変動リスクを受けないという特徴もある。
トレイサーズでは、そのほか既存の「グローバル2倍株」の名称を変更し、「Tracers グローバル2倍株(地球コンプリート)」としてネット販売専用とすることで信託報酬も引き下げる。
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コスト勝負ではない、パッシブの新しい形を目指す
日興AMが新シリーズの投入に乗り出す背景には、昨今のインデックス投信の隆盛もある。若者がネット証券で投資を始める際に、つみたてNISAを入り口とする場合が多い。そしてつみたてNISAは、金融庁が列挙した指数に連動するもの、つまりインデックス投信しか投資対象として認められてない。そして、どの指数に連動するかという違いはあっても、基本的にインデックスファンドはコスト競争になりがちだ。コスト以外に、差別化のポイントがほとんどないからだ。
そんな中で、インデックスと同じくパッシブファンドの仲間であるルールベースファンドに着目したのがトレイサーズだ。当初の2本はレバレッジを掛けているため、つみたてNISAの対象には入らないが、「レバナス」などレバレッジファンドの競合にはなるだろう。「まだまだ投信のマーケットは大きくなる。インデックスと合わせて、ルールベースファンドを新しい投資家に向けて提供し、新しい投資資金を大事にしていきたい」(有賀氏)
コストについては、信託報酬を0.1991%に設定した。「業界最低水準の運用コストを目指す」ことを掲げ、インデックスファンドでトップの三菱UFJ国際投信の「eMAXIS Slim」シリーズは約0.09〜0.22%の信託報酬水準だ。複数商品を組み込みレバレッジを掛けた「3倍3分法ファンド」の信託報酬0.395%と比較しても、比較的低コストだ。
またS&P500ゴールドプラスとグローバル2倍株では、2倍のレバレッジをかけている。100万円の資金で200万円分を運用するわけで、100万円分の運用に対するコストで見れば、実際の半分の信託報酬と考えることもできる。最も人気のある投信である、eMAXIS Slim米国株式(S&P5009)の信託報酬は0.0968%であり、0.1991%という信託報酬の額は絶妙だ。
「レバレッジものの信託報酬は高いものもあるが、コストにシビアな投資家に受け入れていただけるように、少なくとも『2倍がかかっている割には安い』と思ってもらえる水準を目指した」(有賀氏)
数千億円、1兆円規模を目指す
レバレッジ商品2本からスタートするトレイサーズだが、レバレッジ専用ファンドという位置付けではない。例えば、指数にはS&P500やTOPIX、日経平均などのほかにもさまざまなものがある。そんな各指数に連動した商品も今後のターゲットだ。また例えば「高配当ファンド」もルールベースで実現できる。配当利回りのランキングを元に、上位3分の1を投資対象として、時価総額加重平均で投資するなどの手法だ。
現時点では年間何本などの投信をトレイサーズシリーズで展開するかは決定していない。しかし、「シリーズとして巨大化していく必要がある。(純資産額)何百億円というレベルではなく、桁があと1つ2つ必要だ」と、有賀氏は拡販に意気込みを見せる。
つみたてNISAという追い風を受けるインデックスが隆盛の昨今、パッシブファンドの一角に入れるかに注目だ。
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