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Saturday, August 27, 2022

<書く人>やさしくつながる 『人間関係を半分降りる』 フリーライター・鶴見済(わたる)さん(58) - 東京新聞

 ミリオンセラー『完全自殺マニュアル』(一九九三年)の著者が、自らの悲痛な体験を明かしつつ、「人間関係」についての考え方をつづった。「人間には醜い面があるのだから、少し離れてつながろう」との提言は、示唆に富んでいる。

 「人の悩みの多くは人間関係のはず。深刻な問題なのに、小さなことと見なされがち。社会制度や政治などの大きな枠組みに原因があると考えてしまうから」。そんな嘆きが本書執筆の動機の一つ。社会的にDVやパワハラといった人対人の加害行為、性的マイノリティーらを巡る新たな家族の形などへの関心が高まってきたことも後押しした。

 高校時代、「視線の密度が濃い教室の中で」心を病んだ。人目を気にしすぎる社交不安障害(対人恐怖症)だ。皆が同級生を品評するような悪意のある視線に疲れ、大学受験後はほとんど人に会わずに過ごした。晴れ晴れした気持ちになり、分かった。「その人間関係はいらなかったのだ」

 家庭では、二十歳ごろまで二歳上の兄から加害行為を受けていた。就職した会社でパワハラに遭ったことも。「日本は家庭、会社、学校で人が密着しすぎている。距離をとらないと不快感が生まれる」と指摘。背景に「人と人はくっつけば仲良くなるという性善説がある」とし、「つながりが美化されすぎている」と従来の価値観に疑問を示す。

 ただ、人間関係が全くない「孤独」が良いと主張するわけではない。「相手から否定される関係よりは孤独の方がマシだが、自分を肯定してくれる関係なら、そちらの方が良い」。必要なのは、「やさしい人間関係」だと強調する。

 流動的なつながり作りを促そうと、社会に適応しにくい人たちのための「不適応者の居場所」という集まりを開いている。「話していて楽しい友人がいれば、それが幸せ。生きる上で、やさしい人間関係を最優先させてもいいのでは」

 不安を感じ続け、「いざという最悪の時には死ぬこともできると思えば気楽に生きられる」との思いで書いた『完全自殺−』は「心のお守り」だった。あれから約三十年。「『生きづらい』が当たり前の言葉になるなど心の問題への理解はすごく進んだが、まだ道半ば」と感じる。「真面目すぎて勝手に自分を縛ってしまうから、生きづらくなる。人間関係も含め、全てにおいて緩める方向で楽に生きてほしい」。筑摩書房・一五四〇円。 (清水祐樹)


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