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Wednesday, June 2, 2021

ロボアドでアクティブ運用 アルゴリズムで18銘柄を選び出す - ITmedia

 ロボアドといえば、全世界の株式インデックスや債券などに分散投資し、リバランスも自動的に行ってくれる簡単さと安心感から、初心者における投資手法の1つとして定着してきている。

 一方で、伸びるであろう銘柄を見つけて投資するアクティブ運用の世界にも、新たな動きがでてきた。スマートプラス(東京都千代田区)が提供する、アクティブ運用を行うロボアド「Wealth Wing」だ。インデックスETFなどを使うロボアドに対して、Wealth Wingは東証一部上場銘柄から18銘柄を選び、「市場平均に勝ちに行くアクティブ運用」を行う。

データとアルゴリズムで銘柄選定

 多数のアナリストが企業分析を行い、ファンドマネージャーが投資する銘柄を選定するアクティブ型投信は、指数に連動するインデックスファンドと比べて信託報酬と呼ばれる手数料が高いといわれる。

 インデックス投信では年率0.1%以下の手数料のものが増えてきているのに対し、モーニングスターの調べによるとアクティブ投信の平均手数料は1.56%(2020年10月)。実に15倍ものコストがかかっている。ファンドマネージャーがいかに優秀でも、この高い手数料が足かせとなって、なかなか市場平均であるインデックスの成績を超えられない。このことが知られてきたのが、昨今のインデックス投資ブームの理由の1つだ。

 しかしデータとアルゴリズムに基づいて銘柄を選定できたら、コストを抑えてアクティブ運用が可能になる。Wealth Wingはリバランスなどのロボアドとしての基本的な機能を押さえつつ、0.9%の手数料と月額300円、また売却時手数料1%というコスト構造を実現した。WealthNaviなどのロボアド手数料1%に比べても、コストを抑えた設計だ。

 コストを掛けずに銘柄選定を行う秘訣(ひけつ)は、マルチファクターモデルによるスマートベータ運用だ。

マルチファクターモデルによるスマートベータ運用

 マルチファクターモデルやスマートベータ運用というと何やら小難しそうだが、実は個別株の投資家が普通にやっていることをデータ化、アルゴリズム化したものだ。株価に影響を与える要因を「ファクター」と呼び、そのファクターに応じて組み込む銘柄を選定する。

 ファクターの例としては、売上高成長率や自己資本比率などのファンダメンタルズ系や、PER、PBR、配当利回りといった投資指標系、また時価総額や騰落率などのテクニカル系、そしてリアルタイム消費データやネット上のニュースを分析したオルタナティブデータ系などがある。

 「Wealth Wing」ではこれらファクターの数値を収集し、インデックスを上回る成績を出す要素を見つけるところから始める。例えば、東証一部銘柄のROAを調べ、TOPIXに対して株価上昇率が上回った企業のROAがどうだったかをプロットする。もし、ROAが高い企業のほうが、TOPIXよりも高いリターンを出していたなら、ROAは市場を上回るファクターの1つだということだ。

ファクター分析の例

 例えば効果の高いファクターの一つに「予想修正サプライズファクター」があるという。これは、上方修正や下方修正などのサプライズがあった銘柄は、市場平均を上回ることが多いというファクターだ。「前期対比で今期サプライズがある銘柄は、発表ごとに予想が徐々に上がっていく傾向にある。通期で見るとけっこうなサプライズになっている。特に中小型株については、ウォッチしている人が少ないため、大きな効果がある」(スマートプラス運用担当)

 このようにして、50以上のファクターを分析し、その中から市場平均を上回る可能性が高いファクターを組み合わせる。これがマルチファクターモデルの概要だ。この合成ファクターを基に、それぞれの銘柄がどの程度市場を上回るかを数値として導き出す。その数値を最大化しつつ、市場平均から大きく乖離(かいり)しないように、銘柄選定と保有比率を計算することで、インデックスに勝るポートフォリオを構築する。

 一般的なアクティブ投信では、アナリストの分析に基づき、ファンドマネージャーが組み入れる銘柄を決定する。一方で、「Wealth Wing」ではデータ分析に基づきアルゴリズム的に組み入れる企業を決めているというわけだ。

 こうしたファクター分析に基づく運用手法はスマートベータ運用と呼ばれる。株式インデックスのことをベータと呼ぶが、単なる市場平均ではなく各種ファクターを活用した運用であることから「賢いベータ」ということでスマートベータだ。GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)もスマートベータを採用してポートフォリオの比率を決めており、機関投資家の間では一般的な手法の1つだ。

市場平均=インデックスを上回れるのか?

 では、こうしたスマートベータ運用は市場平均、つまりインデックスを上回れるのか。バックテストと2020年11月からの運用開始からの成績でいえば、平均して約10ポイントほどWealth Wingは市場平均を上回った。また、株価の変動率(リスク、ボラティリティ)は9%程度となっており、市場平均を下回った。つまり、リスク当たりのリターンであるシャープレシオは改善した。

Wealth Wingの8つのポートフォリオと、市場平均(TOPIX)との比較

 アルゴリズム系の運用は当然ながら、バックテストで市場平均を上回る組み合わせをとってくるので、これ自体は意外ではない。また半年間という短期の成績では、本当に市場平均を上回る超過収益(アルファ)を獲得できるモデルなのかどうかは定かではない。それでも運用担当者は、アクティブ運用に自信を見せる。

 「もともとポートフォリオ運用の出身だったので、アクティブ運用否定派だった。しかし、前職の運用会社で数百億円のアクティブ運用を行う中で、実感としてインデックスを上回るものがあり、実際にそれで何年も利益を上げてきた。(Wealth Wingを通じて)いろいろな投資手段を投資家に提供したい」

 Wealth Wingは6月3日に新たにスマートヘッジ機能の提供も開始した。これは、相場観によってユーザーが市場平均と逆の動きをするインバースETFを組み入れることで、市場下落の影響を減らせる機能だ。これによって、市場平均が下落してもインバースETFが上昇して打ち消しあう。

 「グローバル分散、アセットクラス分散をしても、金融グローバル化が進む昨今ではリスクをヘッジできないという現実がある。スマートヘッジでは、保有資産とほぼ真逆の資産を買うので、完全にヘッジできる」(スマートプラス運用担当)

スマートヘッジ機能を使うと、市場ファクターをポートフォリオから一部取り除くことができる

 投資をしているのに市場の動きを相殺してしまっては、利益も出ないのではないか? と思うかもしれない。実はここにアクティブ投資の妙味がある。市場平均を超えるリターンを目指す運用では、市場の動きを消し去っても超過リターン分(アルファ)は受け取れる可能性があるからだ。

 「個別銘柄へのアクティブ投資なので、あわよくばアルファも取れる」(スマートプラス運用担当)というわけだ。

 インバースETFは信用取引を使うため、別途資金を必要とせず、手持ちの株式を担保として保険が掛けられるメリットもある。また先物売りを使う場合と違い、利益に対する税金を相殺できるのも制度上の利点だ。

低コストアクティブ運用というニーズ

 構造的に高い手数料になってしまうアクティブ運用のデメリットをなくし、インデックス運用のロボアド並の手数料を実現したWealth Wing。ちょうど、インデックス投信とアクティブ投信の中間に位置するロボアドだといえる。

 「いままでのロボアドはインデックス寄りが多かった。Wealth Wingは、もっと積極的にリターンを取っていきたい人に提供したい。株をやっていたが、時間がなくてできない、負けてしまった。そういう人に合っている」と、プロダクトマネージャーの斎藤祐輝氏は言う。

プロダクトマネージャーの斎藤祐輝氏

 いわゆるアクティブ投信とは違い、投資一任契約に基づいて提供されるため、自分がどんな銘柄をどれだけ保有していて、いつどのような売買が行われ、売買手数料はどれだけ支払ったのかという透明性があることも特徴だ。投資は単元未満株で行われるが、単元株のボリュームに達すれば株主優待も実際に得られる。

 「アクティブ投信に対する優位性はコスト、圧倒的なコストだ。少人数である程度の運用ができる。専門のアナリストを何人もかかえて運用するファンドには、なかなか対抗できないかもしれないが、コストパフォーマンスでいえば有利。アクティブ投信も、今後コスト競争に巻き込まれざるを得なくなってくる。そのとき、アナリストの知力をどう反映していくか逆に見たい」。運用担当者はこう話す。

 投資初心者を中心につみたてNISAの普及もあって、インデックス投資が日本でも猛烈な勢いで普及を始めている。そうした中、そのときそのときのテーマ設定や、営業力に頼っているのがアクティブ投信の現状だ。ロボアド型の低コストアクティブ運用は、新たな市場をつかみ取れるかを注視したい。

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