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Thursday, August 6, 2020

「私たちはデザイナーとして、半分の仕事しかできない」ルメールの2人に訊く21SSとコロナ禍について - Fashionsnap.com

「ルメール」2021年春夏コレクション

「ルメール」2021年春夏コレクション

Image by: LEMAIRE

 67ブランドが参加したパリ・デジタル・メンズファッションウィーク。その大トリを静かに飾ったのは、クリストフ・ルメール(Christophe Lemaire)とサラ=リン・トラン(Sarah-Linh Tran)が手掛ける「ルメール(LEMAIRE)」だった。2人のインタビューを交えて、2021年春夏コレクションを振り返ってみよう。

(文:ファッションジャーナリスト 増田海治郎

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 ミラノのビッグメゾンは、フィジカル(リアル)ショーを中継するケースが多かったが、パリでその選択をしたのは数ブランドにとどまった。ルメールはリアルショーの録画を配信するというベーシックな手法で臨んだわけだが、リアルショー中継組では世界観やディテールがもっとも鮮明に見る側に伝わってきた気がする。なんというか服が生き生きしているというか、息遣いが聞こえてくるような服だったのだ。まずは今シーズンのインスピレーション源を聞いてみよう。

クリストフ・ルメール「インスピレーションの源は日常生活で、私たちが服に何を期待しているのかを毎シーズン自問自答しています。快適さ、機能性、組み合わせて遊べること、自分たちだけのシルエットを作ること、自分たちの個性にまとまりがあって自由に動けること――こういうことを考えながら服を作っているのです。私たちはアートやファッションの歴史、世界中の文化の多様性に情熱を注いでいますが、それは多重で複雑なものであり、時には無意識に自分自身にも当てはまるものです。私たちは、今日の世界を理解する上で意味のある良い服をデザインしようとしています。そして、このアイデアを進歩的かつ進化的な方法で、毎シーズン改良していくというアイデアが好きです。つまり、新しいシーズンの服は同じ物語の新しい章、ということなのです」

サラ=リン・トラン「コロナ禍の影響で私たちは自宅で仕事をしていて、パリの街を再び歩き回ることを夢見ていました。だから、動き回る身体を想像することは、コレクションを作る上での着想源になりました。全天候型でゆったりとしたプロポーションのワードローブは、だまし絵や空間を浮遊しているような感覚を表現しています」

 無地の中にいくつか散りばめられたイラストは、メキシコ出身のアーティスト、マルティン・ラミレス(1895-1963)の作品。2020年秋冬に続くコラボレーションとなるが、とくにサラさんは彼の抽象的なドローイングに強い思い入れがあるという。

サラ=リン・トラン「私は昔から『アール・ブリュット』(西洋の芸術の伝統的な技術を訓練されていない人の作品。アウトサイダー・アートともいう)に興味がありました。20歳の時にパリのモントルイユの『abcd / ART BRUT』というギャラリーでインターンシップをしていて、そこでマルティンの作品に出会いました。家族を養える仕事を探していたマルティンは、30歳の時にメキシコからアメリカに移住し、鉱山採掘や鉄道建設に従事しました。しかし、メキシコでクリステロ戦争が勃発し、彼の財産は破壊され、ある誤解から家族との関係も絶たれてしまいます。精神疾患を患っていた彼は、1931年にストックトン州立精神病院に収容され、1935年から絵を描き始めました。自分で集めた紙に鉛筆、木炭、フルーツジュース、靴のワックスなどから作られた色のついたペーストを塗って、絵を描いたのです。彼の作品が保存されているのは、芸術家で心理学の教授でもあるタルモ・パストのおかげです。コラボレーションの可能性を探るに当たって、私はニューヨークのギャラリー『RICCO/MARESCA』にアプローチしました。彼はこのプロジェクトにとても熱心で、マルティンの孫を紹介してくれて、コラボレーションが実現したのです。ワードローブにはマルティンの想像上の風景の断片が描かれており、そこから人間の顔、流れる髪、動く体が浮かび上がり、これらの秘密の庭園と完璧に調和するのです」

クリストフ・ルメール「昨年、彼の家族と連絡を取り合って、コラボレーションが実現しました。お孫さんは祖父の作品がプリントに使われているのを見てとても喜んでくれました」

 フィジカルショーとデジタルショーの違いについて、どのように思っているのだろうか?

クリストフ・ルメール「フィジカルショーの全てをデジタル再現するのは、どんな手法を用いても難しいと感じています。私たちは、華やかなイメージで感動を与えようとする"ショック・バリュー"には興味がなく、スタイルのビジョンを見せるだけで、上手くいけば創り出せる"感情"に興味があるのです。今シーズンは、シンプルで分かりやすい方法でこれを試みました」

サラ=リン・トラン「フィジカルショーというのは、ほとんど映画のようにワンテイクで終わるもので、動画もワンテイクで撮影します。観客がいることで、モデルたちの表情が変わってよりインタラクティブなものになるのは、フィジカルならではの利点です。デジタル・ショーは複数回撮り直すことができるので、動きやリズム、態度をより洗練させることができます」

コレクションフィルムのスクリーンショット

 2分4秒にモデルがやや不自然に外を向くシーンがあるのだが、ある若手のジャーナリストがその意図を図りかねていたので、聞いてみることにした。

クリストフ・ルメール「私たちは常にモデルを個人として選び、自由に動いてもらいます。ファッションロボットではなく、スタイルを持った通りすがりの個性的な人たちとして選んでいるのです。彼らはしばしば街中で見かけるミステリアスな人たちのように、私たちにインスピレーションを与えてくれます。モデルのラッシーナがなぜ視線を外に向けたのかはわかりませんが、私はこの瞬間が好きでした」

サラ=リン・トラン「私には分かりません。ラッシーナが何かの音を聞いたのかな? このちょっとした仕草が、見ている人との距離を縮めてくれると思うので、あえて編集せずにそのままにしました」

 マルティンの絵柄と大柄のチェックを除けば、ルメールの今シーズンのコレクションは、ほぼ無地の生地で構成されている。なのに、ルメールならではの色というか個性はちゃんと無地でも表現されている気がする。無地の生地で個性を出すコツは?

クリストフ・ルメール「私たちは、着る人の個性を強調するような服を作りたいと思っています。だからこそ微妙な色、色のニュートラルさ、カットのしやすさ、デザインのミニマリズム、そして年齢を重ねても違和感のない生地を好んで使っているのです。私たちはデザイナーとして、半分の仕事しかできないと信じています! あとの半分は着る人によって完成されるものだと思っているので」

サラ=リン・トラン「無地の生地は邪魔にならないし、組み合わせも簡単です。また、私たちにとって重要なのは、色が素材にどのように反応するかということ。だから、生地は常に色に関連しています。ヘビーウールにはダークカラーを、ソフトなコットンにはウォッシュドカラーを、クラシックなギャバジンにはニュートラルカラーを......といった具合に。着る色や生地が人の"背景にある"方が、個性が際立ちやすいと思います」

 最後にコロナ禍が、クリエイティビティにどのような影響を与えたのか聞いてみた。

クリストフ・ルメール「なぜ私たちが服をデザインし作るのかについて、さらに深く考えさせられるような興味深い内省的な時間でした。そして、私たちの信念と情熱を強化できた時間でもあったと思います。時代を超越したスマートな良い服を作っていきたいと改めて思いました」

サラ=リン・トラン「自宅での作業は、私たちの身近な環境と服との関係を強化したのかもしれません。座ったり掃除したり、植物に水をやったり、服を脱いだりする中で、これまで以上に服との対話を意識するようになりました。だから、私たちが服に与える形は、機能性がこれまで以上に定義されているかもしれませんね」

文・増田海治郎
雑誌編集者、繊維業界紙の記者を経て、フリーランスのファッションジャーナリスト/クリエイティブディレクターとして独立。自他ともに認める"デフィレ中毒"で、年間のファッションショーの取材本数は約250本。初の書籍「渋カジが、わたしを作った。」(講談社)が好評発売中。>>増田海治郎の記事一覧

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August 06, 2020 at 01:06PM
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