クニ・チェン(Kuni Chen):金融アドバイザーにソフトウェアを販売するフィンテック系スタートアップ、シーズインベスター(Seeds Investor)でESGインテグレーションの責任者を務める。
クニ・チェン:結局のところ、企業は決算報告でもESG指標でも、一番よく見える数字を報告します。ですから話の半分程度は割り引いて聞いておき、その会社が何をしようとしているのか、全体像をしっかり見極めなければなりません。
特に中小企業では、手に入るデータは比較的少ないですから、企業が報告書として出すESG指標に頼らざるを得ないという面があります。そうなると規模の小さい企業では、グリーンウォッシュのような見せかけの環境表示でごまかされるリスクもあります。
私のようなアナリストの視点があれば、報告書に挙がっている数字も鵜呑みにせず疑ってかかることが大事だと分かるでしょう。グリーンウォッシュも、そのような目で見れば見分けがつきます。ある会社がいかに素晴らしく、環境に配慮したサステナブルな企業であるかの説明を受けても、説明を聞きながら内心、「あれ、ちょっとおかしいぞ」と気づくわけです。
リアルタイムで投資の意思決定を行う際に、私が毎日直面しているもう1つの課題はバリュエーションです。現段階でも、市場は質の高いESG企業を見分けることができます。こうした企業、特に再生可能エネルギー分野の企業は、より高いマルチプル(企業価値)で取引される傾向があります。
サステナビリティの観点から見ても企業のファンダメンタルズの観点から見ても、こうした銘柄を保有したいと考えるかもしれませんが、 バリュー投資の視点で見れば「これは高すぎる」となるでしょうね。
「急激なペースで変化している」
ジョーダン・ロック(Jordan Locke):エグゼクティブサーチ・人材紹介の提供するエーカー(Acre)でサステナブル投資を専門とする金融コンサルタント。
ジョーダン・ロック:人材不足の傾向は、ESGの発展やサステナブル投資の動向に関連する問題とおそらく密接に関連しています。私が採用活動でお会いする候補者たちの市場は、いま最も人材獲得競争が激化している市場です。特にアメリカではこの傾向が顕著です。
私が面接をしている候補者も、他に3〜4社、あるいはそれ以上の会社の面接を同時に受けているといったケースも少なくありません。どれだけの数の求人があるかというと、ちょっと正気の沙汰ではないほどです。それなのにこの分野では、終身雇用のポストを用意しても応募してくる人材は非常に限られているのが現状です。
このように投資ブームが過熱し急激なペースで変化が起きているため、機関投資家を担当する資産管理会社はどこも、サステナブル投資やESG関連の人材の採用にも注力しています。今の大きな問題は、この分野のデータがないことと、あってもうまく分類する方法がないことで、これは本質的なリスクです。
「グリーンウォッシュは常に話題」
匿名コンサルタント:サステナブル投資へのアドバイスを求める企業を顧客に持つ。
匿名コンサルタント:最近この業界でよく目にするのが「最近、とある業者と仕事をしているのですが……」で始まる話題です。われわれのようなコンサルタントに仕事を依頼してくる相手は、ESGに関する情報を開示したり、その手の情報を報告するためにリソースや予算を割く理由がないと考えています。しかし最近は、彼らの得意先の大企業が、ESGに関する情報開示を求めてくるケースが多いのだそうです。
大手の得意先に情報開示を求められれば中小企業であっても従わざるをえず、それがきっかけとなって情報開示の方向に向かっているそうです。彼らも得意先からは気に入られたいでしょうし、そうでなくても信頼に足る相手だと思ってもらいたい、その会社との取引を増やしたい、とは思っているはずです。
例えば、知名度は低いながらも、アルミニウムのロール製品を大手のサプライヤーやアップル規模の企業へ納入している企業がありますよね。そういった企業には、広告戦略上の理由でESG情報を開示する方向にシフトしなければならない、というプレッシャーはありません。開示に踏み切らせる規制上の理由も、金銭的なメリットもありません。ではなぜそうしなければならないかというと、結局は経済的な理由からなのです。
グリーンウォッシュは、常に話題にのぼります。クライアントとあるプロジェクトのことで議論していても、あるいは会社の10年計画を立てているようなときにも、必ず話題になります。いつも頭の片隅にはグリーンウォッシュのことがあって、絶対にグリーンウォッシュにならないようにするにはどうすればいいかと考えているのです。
ですから私たちは、会社のことをしっかりと見て、その会社が何をしたいのか、私たちが提案する戦略が確実に実行可能なものかを確認しています。グリーンウォッシュについては頻繁に議論していますし、これはグリーンウォッシュだなと思われる事例も実際、多く目にしています。
「カギは“アルファ企業”を見つけること」
ヤナ・カカール(YanaKakar):サステナブルな投資先を探す特別買収目的会社(SPAC)、グロース・フォー・グッド・アクイジション・コーポレーション(Growth for Good AcquisitionCorp)のサステナビリティエグゼクティブ兼CEO。
ヤナ・カカール:サステナブル投資とは、世界経済がカーボンニュートラルに移行する際に最も必要とされる企業の中から“アルファ企業”を見つけることです。
私がサステナブル投資に惹かれたのは、気候危機との戦いを加速度的に進めるという私自身の最大の関心事に対して、自分のスキルを活かして取り組めるからです。
誤解を恐れずに言えば、サステナブル投資とサステナブル投資家はある意味、ESG投資に対する懸念から逃れることができます。
こういう言い方が適切かどうかはともかく、ESG投資家はときどきカモのように見られることがあります。ひとつは、グリーンウォッシュに気づかなくて誰かに「バカだな、これはグリーンウォッシュだよ」などと言われるパターン。あるいは、利益の出るアルファ企業を求めず、いわゆる「良い会社」に固執したり、(儲かるのに)「悪い会社だから」と言って切り捨ててしまうパターンですね。
ポイントはアルファ企業を見つけることです。なぜなら世界経済は変化しており、今後3年、5年、10年の間に低炭素社会へのソリューションを提供できる企業が最高のパフォーマンスを発揮することになるからです。
「ESGのネガティブな話は聞きたくない」
匿名ストラテジスト:投資家や企業に対し、ESG指標に関するアドバイスや情報開示・戦略について助言している。
私たちはIR関連の仕事を多く手掛けており、投資家の意見をかなり参考にしています。というのも、ESGを信用分析に組み込みたいという要望の多くは投資家からいただくからです。市場の穴とは何か、それをどのようにして埋めるか、株式を発行する企業の情報開示とはどうあるべきかといった課題を理解しようと鋭意取り組んでいます。
私たちは、質・量ともに優れたESGデータが提供されるようにするためのパイプ役だと心得ています。これが重要な課題であることは言うまでもありませんし、このような情報提供が重要だと株式の発行会社からいつも聞かされていますから。不完全なデータしかなくて苦労している企業もあれば、とにかく情報開示したくないという企業もあります。企業に対しては、投資家にとってなぜそれが重要なのかを順を追って説明し、その重要性を理解してもらうことが大切です。
また株式発行会社の多くは、情報開示よりもまずどの指標が最も重要かを知って、それを活かした行動をとりたいと考えています。彼らは、ESGにとってマイナスになる話は聞きたくない。公開されるESG情報の多くをコントロールできますから、もっと積極的に情報を開示していこうとしています。
(翻訳・渡邉ユカリ、編集・常盤亜由子)
からの記事と詳細 ( ESG投資、成長の陰で業界関係者5人が本音「企業の報告は話半分に聞いておいたほうがいい」 - BUSINESS INSIDER JAPAN )
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