「課題を共有し、最適な地域交通を検討する」としてJR西日本が11日、初めて各線区の収支を公表した。今後、存廃などが取り沙汰されかねない「赤字」のローカル線は県内で5路線6区間あり、営業するJR線の延長の半分に上る。「数字で判断しないで」と維持を求める県や沿線住民の一方、不便さを嘆く利用者の声も聞かれた。
低い山に囲まれた静かな地域にたたずむ、築100年超の木造の於福(おふく)駅。午後2時10分、長門市駅行きの列車の乗降客は4人。午後3時22分の列車では、乗り降りはなかった。
長門市から来た女性(63)が美祢線を利用したのは昨年7月以来。買い物のために午前10時半に美祢駅に着き、帰りの列車まで3時間以上あったのでバスで於福駅に近い農産物直売所に寄ったという。美祢線について「不便だから余計に利用しなくなりますよね」と話した。
美祢線は朝夕の通学・通勤時間を中心に往復18便、停車する。全線不通となった2010年の豪雨災害の翌年に運転が再開され、コロナ禍の前は秋吉台に向かう中国や台湾などの海外客も立ち寄っていたという。だが、今回のJR西日本の発表では、利用客はこの30年ほどで3割以下に落ち込んでいた。
於福駅の「於福地域交流ステーション」の村田裕子・推進協議会長(65)は「高齢者は免許を返納して運転できない人も多く、移動手段としての鉄道は重要。鉄道がなければ人が住めなくなってしまう。ぜひ残して観光にも生かしてほしい」と存続を訴えた。
2010年に美祢、山陽小野田、長門の沿線3市などが設置した「JR美祢線利用促進協議会」事務局の美祢市地域振興課は、「公表内容を真摯(しんし)に受け止め、引き続き連携して利用促進に取り組む」と話した。長門市産業戦略課の仲野亮課長は「今回はあくまでJRの経営状況の発表と位置付けている」との受け止めを示した。長門市内を通る線区は、美祢線のほか山陰線の2区間も赤字が公表された。
沿線3市と県、JR西日本でつくる「JR岩徳線利用促進委員会」は2017年の発足後、イベントやSNSなどで利用をアピールしてきた。委員長の中村貴子・周南市公共交通対策課長は「通勤や通学でよく使われている。生活に必要な路線なので、なくなると困る」と話した。岩国市地域交通課は「委員会でイベント列車やスタンプラリーを企画したが、西日本豪雨やコロナ禍で成果は出ていない。今後の取り組みを検討したい」と言う。
2億円の赤字だったJR小野田線。11日夕方、南小野田駅にいた高校1年生の森蔭嘉希さん(15)は電車通学を始めたばかり。「1時間に1本しかないから少し不便。本当は2~3本あったらいいけど」と退屈そうに小野田駅行きの電車を待っていた。
支線の雀田―長門本山間は、朝2往復、夕1往復の1日わずか3往復。午後6時37分、長門本山駅発の最終列車の乗客は一人だけ。「ここまで本数が少ないのは全国でも珍しいから乗っておきたかった」。その男性(39)も、電車が好きで関東地方から来たJRの乗務員だった。
人口減少により公共交通の維持が難しくなる中、宇部市とJR西日本は以前、鉄道の線路跡に専用レーンや優先信号を整備してバスを運行させる「バス高速輸送システム」(BRT)の導入の可能性を模索。153億円の費用がかかるとの試算から「採算性の確保は困難」と構想が「凍結」されている。市の担当者は「最善の公共交通政策をこれからも検討していく」としている。
JR西日本によると、この日に発表した2019年度の輸送密度(1キロあたりの1日平均利用者数)が2千人未満の赤字の区間は、県内のJR路線495・9キロメートルのうち259・5キロメートルで52・3%に上った。村岡嗣政知事はコメントで「改めて地方ローカル線の置かれている厳しい状況を認識した」と受け止める一方で「暮らしや経済を支える大切な基盤として維持して頂きたい」と訴えた。
山口大学大学院創成科学研究科の榊原弘之教授(都市地域計画)は「JRだけに任せていては問題は解決できない」とみる。どのようなサービスが最適か。地域によって違うことを踏まえて「地域に住む人たちや自治体が主体的に考える必要がある」と指摘。また、路線は市町をまたぐため「県の役割も重要だ」と話した。(太田原奈都乃、垣花昌弘、水田道雄、川本裕司)
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