コロナ危機で世界の死者数の半分を占める17万人以上の死者を出した欧州。いまこそ復興に向けて足並みを揃えるべきときだが……。
REUTERS/Johanna Geron
依然、金融市場は新型コロナウイルス関連のトピックで持ち切りだが、徐々に経済の再稼働に関するさまざまの議論が耳目を集めるようになってきている。
感染拡大で甚大な被害を受けた欧州も同様であり、とりわけドイツが経済再稼働への先陣を切ったことは世界中で大きく報じられた。
ドイツの「譲歩」がもつ意味
メルケル独首相とマクロン仏大統領は5月18日、新型コロナウイルスの感染拡大で打撃を受けた欧州経済の復興のため、5000億ユーロ(約58兆5000億円)規模の「復興基金」を設立することで合意したと発表した。
欧州連合(EU)としての共同基金であり、永年の課題である「共同債」への一里塚になるとも考えられる。
メルケル首相の「EUの歴史において最も深刻な危機には、それにふさわしい答えが必要だ」との発言は、従来のドイツの立場を180度覆すものであり、感染抑止を経て支持率を復調させている同首相なればこそだ。
感染抑止を経て支持率を復調させているドイツのメルケル首相。
Michel Kappeler/Pool via REUTERS
この独仏提案の最大のポイントは、新たに設立される復興基金は欧州委員会発行の債券を原資とする「補助金」であって「融資」ではない、という点にドイツが合意したことだ。基金から受け取る資金は返済の必要がないことになる。
これは、イタリアやスペインなど支援を希望する側が要求し、ドイツ、オーストリア、オランダなど支援を提供する側との認識のミゾが最も大きかった論点で、ドイツがそこで譲歩したことは大きな意味をもつ。
欧州中央銀行(ECB)が導入した「パンデミック緊急購入プログラム」(※)に違憲判断をちらつかせて横やりを入れるドイツ憲法裁判所に批判が集まっており、独政府として何らかの譲歩が必要と考えた上での結論、というのは邪推が過ぎるだろうか。
※パンデミック緊急購入プログラム……債権や国債などの資産購入を通じた量的緩和により、金融市場を安定させ、ユーロ圏経済の悪化を未然に防ぐための緊急措置。ECBが3月18日に導入を決めた。7500億円(約89兆円)規模で、2020年末まで実施する。
「返済不要の補助金」が引き起こす対立
復興基金の原案作成で難しい舵取りを迫られる欧州委員会、フォンデアライエン委員長。
Olivier Hoslet/Pool via REUTERS
もっとも、現状はあくまでドイツとフランスによる共同「提案」だ。具体的な内容は5月中に欧州委員会から示され、最終決定は6月に持ち越される。
また、ドイツ以外の国がすべて納得したわけでもない。返済不要の補助金という形式に反意を表明している国もある。オーストリアのクルツ首相は独仏提案に反対した上で、オランダ、デンマーク、スウェーデンと連携する構えを示している。
ここで、いま想定されている復興基金の内容を簡単に説明しておこう。
欧州委員会が目下検討中とされる案では、基金の原資は複数年(2021~27年)から編成されるEU予算を一時的に増額した上で、それを裏づけに債券を発行することになっている。つまり、増額分に応じて各国は拠出額を引き上げる必要が出てくる。
拠出額の引き上げは全会一致を要する決定事項。前述の「融資」ではなく「補助金」という論点で各国の意見がまとまらなければ、全会一致も難しくなり、したがって復興基金も画餅に終わるというシナリオもあり得る。
現状では、5月27日に欧州委員会の案が公表され、6月18日からの欧州理事会(EU首脳会議)で最終合意を目指す予定となっている。ということは、この非常事態のなかで1カ月も議論を引っ張った挙げ句に最後は合意できず、という最悪のパターンもまだ残されているわけだ。
欧州理事会がひとたび決裂した過去(4月23日)を思い起こせば、ドイツが譲歩に至ったことは大きな進歩といえるものの、それ以外の問題は何も解決していない。
4月段階では、復興基金の規模が1兆ユーロになるとの見方も出ていた。それを半分の金額にして(各国の拠出金を抑えた)代わりに、融資ではなく補助金にするという落としどころを探った……という舞台裏が透けてみえるが、それでも合意できないとなると、事態はさらに悪くなったとも考えられる。
大国主導に反旗をひるがえす「新ハンザ同盟」
大国主導の復興基金に反対する「新ハンザ同盟」の筆頭国、オランダのルッテ首相。
REUTERS/Eva Plevier
筆者は、独仏の共同提案を出発点とすること自体が障害になる可能性もあるとみている。
目先でいうと、反対国の筆頭にいたドイツが、オランダを筆頭とする反対国を説得できるかが問われる局面だが、そもそもいま反対している国々は大国主導の意思決定を快く思っていないという背景がある。
欧州債務危機(※)の際に顕著だったが、EUではドイツとフランスによる共同提案や共同会見が先んじて行われ、それをもとにユーロ圏やEUレベルでの重要決定に至ることが多かった。メルコジ(メルケル&サルコジ)だとか、メルクロン(メルケル&マクロン)とか、独仏主導を揶揄する造語も多く生まれた。
※欧州債務危機……ギリシャの財政赤字改ざん問題をきっかけに同国の国債価格が急落。大きな債務を抱えるポルトガルやアイルランドに飛び火したのち、スペインやイタリアといった域内の大国にまで影響がおよんだ。
EU諸国の「距離」はなかなか縮まらない。
REUTERS/Francois Lenoir
そうした通例に対し、近年では、域内全体にかかわる論点については大国だけで決めるべきではないという空気感が生まれてきている。
その流れをけん引するのが「新ハンザ同盟」と呼ばれる勢力で、オランダ、アイルランド、北欧(デンマーク、フィンランド、スウェーデン)、バルト(エストニア、ラトヴィア、リトアニア)の8カ国から形成される。総じて豊かな小国の集まりだ。
2018年3月には非公式の財務相会合を開催し、「経済通貨同盟(EMU、ユーロ圏を指す)の将来はEUの全加盟国で議論すべき」との共同声明を出して注目された。
声明では「今後の統合深化については、権限の委譲ではなく真の付加価値を追求すべき」といった旨の指摘もあり、共同基金の設立やそれを返済不要とする構想に難色を示しそうな立場を明示している。
今回の復興基金の反対勢力にも、オランダやデンマーク、スウェーデンといった新ハンザ同盟を形成する国々が名を連ねていることを踏まえると、独仏共同提案が現在報じられている形で残ったまま合意に至るとは考えにくい。
ラフに言えば、どんなに素晴らしい案でも、独仏主導というだけで新ハンザ同盟の「癇(かん)にさわる」可能性がある。
さて、EU予算を一時増額し、それを裏づけに債券を発行して資金を調達するという(検討中の)復興基金案。債券を通じて調達した資金を、返済不要な補助金として交付すれば、当然のことながら「債券が償還される際の負担をどうするのか」という論点が浮上する。
支援する側の健全国からすればきわめて重要な論点で、本当に補助金方式でいくのであれば、その出口まで含めて新ハンザ同盟の国々との合意を取りつけなければならない。
冒頭にも書いたように、復興基金にはEUの永年の悲願ともいえる共同債発行への一里塚としての期待もかかるのだが、その道は依然として相当に険しいものと考えたほうがよさそうだ。
※寄稿は個人的見解であり、所属組織とは無関係です。
唐鎌大輔(からかま・だいすけ):慶應義塾大学卒業後、日本貿易振興機構、日本経済研究センターを経て欧州委員会経済金融総局に出向。2008年10月からみずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)でチーフマーケット・エコノミストを務める。
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May 25, 2020 at 03:09AM
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独仏主導の「欧州復興基金」に分裂の暗雲。オランダ、北欧諸国など「新ハンザ同盟」の動きが気になる - Business Insider Japan
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